いつもより階段を上る足が重い
この階段一段一段が私の命のカウントダウン


あなた私のためにいてくれますか


 私が親友である彼女の死を知ったのは胸騒ぎで目が覚めた早朝。
 どうして私は彼女の異変に気づいてあげられなかったのだろう。
 今思えば先日の彼女の行動はおかしなものばかりだった。
「美佳、私が突然いなくなったらどうする?」
「何、いきなり」
「ちゃんと答えて!」
「そうだなぁ……寂しいだろうな」
「それだけ?」
「だってわかんないよ、そんなこと」
「そう……だよね」
 あのとき彼女はどんな思いで私にきいてきたのだろう。


 私はすぐに彼女の家に行った。
 泣き崩れている彼女の母親と放心状態の父親。
 私の姿を見ると
「美佳ちゃん、きてくれたのね」
 と彼女の母がゆっくり近寄ってきた。
 手に何か持たれている。
「あの子がこれを……あなたに」
 嗚咽のようなかろうじて聞き取れる言葉と一緒に手紙を受け取った。
 手が震える。


 内容はひどく心を痛めるものだった。
 謝罪の言葉から始まり。
 彼女の心にひっかかっていたらしいことが丁寧に綴られていた。
 そして……。


 あっという間に時間が過ぎ、もう辺りは暗くなってきている。
 マンションへ帰り、エレベーターは使わず階段で上る。
 重い足で最後まで。
 この階段の一段一段が私の命のカウントダウン。
「ねぇ、私にはあなたしかいないんだよ?」
 空から落ちる影と握られた最後の言葉。


『美佳ちゃん、あなた私のために泣いてくれますか』