空から降る水は、必ずしも透明だとは限らないらしい。


+雨が降る+


 高層マンション建ち並ぶこの道も、一年も通えばもう見慣れたものだ。
 違うのはそう、さっき上がったばかりの雨の匂いと、日が落ちかかって薄暗い事くらいか。
 ポツリ
 何かが空から落ちてきた。
 また降りだすかな。
 そう思って空を見上げると、上から黒い影が落ちてくる。
 あっと思っているうちに、それは目線を通り過ぎ地面に叩きつけられた。
 視線をゆっくりと落ちてきたものへと移す。
 そこには変な風に曲がり、赤くなった地面に横たわる人……人の死体があった。
 わけがわからずぼうっとしていると、どこかで誰かの叫びが聞こえてくる。
 マンションこの窓から、人の顔が次々と覗いてくるのが分かった。


 誰かに何度か質問され、自宅に帰ったのは既に陽が完全に沈んだ後。
 家に着いてしばらくすると、ようやくさきほどまで意識の外で動いていた時間が現実のものとして感じられた。
 聞いたところによると、飛び降りたのはそのマンションに住んでいた女の子。
 遺書はなかったが、何か手紙を握り締めていたらしい。
 手紙の内容は血の汚されてその場では分からなかったが同じ日に先に自殺したその子の友人からの物らしい。
 二人で自殺を計画したのか、それとも親友の死に耐えられなかったのかは分からないが、その出来事が記憶として深く刻まれたのは確かだ。


 翌朝、いつもと同じように家を出て、少し迷ったが昨日と同じ道を通る事にした。
 例のマンションの前。
 死体は綺麗に片付けられ、近くに花が供えられている。
 その花を除けば、何事のなかったような……と思いかけたが、地面に残る血の跡を見て改めた。
 血の跡は死体の片付けられた今、まるで赤い液体だけが空から降ってきたような錯覚を起こさせる。
 いや、あるいはそうなのかもしれない。
 人の体はその液体の入れ物に過ぎず、それが落とされ、壊れたから中身が外に出てきた。
 当然の原理だ。


 ポツリ
 何かが空から落ちてきた。
 ゆっくりと空を見上げる。
 天気予報は雨だったから、そろそろ降り出すかもしれない。
 その場を後にして目的地へと足を急がせる。
 あの、地面に残された跡も、やがて雨と共に流されてしまうだろう。