+精神的閉鎖空間+
目を開けると酷く閉鎖的な空間。
コンクリートの壁、四角い部屋、空気の流れは感じられない。
外はすでに暗く、普段生徒達で賑やかなこの場所に残るものは他にいない。
そろそろ帰ろうか、そう思って立ち上がる。
まだ鍵は閉められないだろうからのんびりと歩き出す。
暗い廊下にところどころにつけられた電灯。
なぜか急に物寂しくなり足を速めた。
速歩きだったそれは、いつの間にか駆け足になっていた。
見慣れた学校の昇降口。
くつを履き替え外へ出ようとすると、あと一歩のところで戸が閉まってしまう。
ああ、またか。
開かれない戸にそっと触れ、学校に一人残る寂しさ。
毎日毎日繰り返される行為、そして同じように目の前で閉じられる戸。
もっと早く教室を出ればよかった、そうしたら間に合うかもしれない。
もと来た廊下を歩きながら頭の中で作戦を立て直す。
何十回、何百回も目の前で閉まる戸を見てきたから、少しの諦めもある。
もう二度と、外に出られないのではないかそう思ってしまう。
学校は好きだ。
友達とよくバカ騒ぎをしたのを覚えている。
家に帰りたくないからといって、夜中まで教室に残ろうとした事もある。
その自分がなぜこうも外に憧れるのか、家に帰りたいと願うのかは分からない。
ただ思うのは、あと少し早く教室を出て外に出てられていたら、それだけ。
気を取り直して教室の自分の机に座り、暇な時間を持て余す。
また明日の同じ時間、昇降口に向かうその時まで。
何が起きたのかはわからない。
必死に逃げて学校を出てそして気づいたら彼のお葬式。
突如学校を襲った地震によって不意に命を落とした彼。
地震がおさまって逃げる途中、あと一歩でという時に転がっていた物に足を取られ転倒する。
そしてその直後襲ったさらなる地震。
彼の上に倒れる昇降口の下駄箱。
そして当時木造だった校舎にどこからともなく広がる火の気。
一瞬の、ことだった。
学校のあとには新校舎が建てられ、今も生徒達がそこで生活している。
しかし新しく生まれ変わったそこには、今もまだ外を夢見た彼がさ迷っているらしい。
(2006.05.30)